■ 飛騨 甚 詩集
― 「さくら小路」~さくらユニバーサルの作家たち ―
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見知らぬ季節
始まる
ひとつのものが終わって
始まる
ひとつのものが終わらずに
粉雪が舞っている
清明な空
柿の実が朱い
ぼくの中に積み重なっていく
日と日
また生きはじめる人
さよならと言いかけて
その白々しさを
ほほえみに換えた
捨てて尚
拒めぬ愛の忌まわしさ
ためらいがちに振り返れば
枯野の向こうから
冬の顔して見知らぬ季節がやってくる
置き去りにしたもの
2012/09/25(火)
14:17
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生駒山
初冬
語りつくせぬ愛
あなたから逃れて
風の間に
ひそむ冷たい哀しみ
なぜ忘れられぬのか
わかっているのに
心を
空に帰す
繰り返し繰り返しては
否定する人生
想いがすべて
さらわれていけばいい
風に追われる
片雲のように
尚も放浪しつづける魂を抱いて
ここに来てみた
どこで暮らしても
同じだと思いながら
西の空は
遥かなる夕焼け
目に滲み
幻のように続く
生駒山
置き去りにしたもの
2012/09/25(火)
14:14
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桟橋
雨が降っている
桟橋に佇めば
港はもう冬の顔をしている
ぼくはおまえの体調を気遣っている
船の汽笛が
突然ぼくをひとりにする
愛してたはずの人が
藍色の影になる
捨て去る悲しみはなく
崩れ去る自らへの約束の脆さを嘲り
ぼくは
海へ力いっぱい石を投げる
心に生き始めたやさしいものを拒むように
雨が降っている
思いはいつまでも立ち尽くしている
おまえの存在を認めながらも
その代償に失う数年の誠の恐さに
置き去りにしたもの
2012/09/25(火)
14:11
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新たなものたち
11月の波の無垢の白さ
堤防に立つ心は心を罵りながら
今の誠 故の過去への裏切り
あらゆる面影につなぐ手を
ほどく ひとつまたひとつ
時の彼岸へ葬るように
追うな
追うな愚かな願いを
満たされぬまま憧れとともに摘まれる魂を
枯れて猶 鮮やかに蘇る
日々人々すべての幻に
11月の水平線の彼方
カモメの飛ぶ
青空 これほどに美しく
欺きの痛みを抱擁する刹那から永久への光よ
懺悔しつつ
ためらいながらも
重い心の扉を開く
今
その新たなものたちの訪れに
置き去りにしたもの
2012/09/25(火)
14:10
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百日紅
百日紅が生えている
心の空に背伸びして
目を閉じれば
少年は大地の彼方からやってくる
遠い日の百日紅の木蔭に立ち止まり
少年は遂に私を見つけられない
懐かしい母の声に呼ばれたように
ふいに駆け出す少年の重みが
私を甘く傷つける
置き去りにしたもの
2012/09/25(火)
14:08
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