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夜明け
春雷の音を聞きながら
私は思い出す
蔓ばらの咲く塀に沿って
歩いていたことを
たあいもない会話をくりかえしながら
おまえの顔が
いつも明るい笑いに彩られていたことを
たぶん
そのころの私の目は
今よりも澄んでいただろう
おまえの黒い瞳を
はっきりと映せるほどに

雨混じりの風は
締め切っているはずの台所の
ぶらさげられた杓子のたぐいを揺らしている

午後
私たちは美しい池のほとりで別れて
お互いのバイト先へ急ぐのが日課だった
おまえはパンの店へ
私は坂道を登って
時計塔のある喫茶店へ
窓からは海も見えて
たぶん
そのころの私の心は
今よりもずっと澄んでいただろう
おまえの溢れることばを
全て覚えていられるほどに

春雷の音を聞きながら
私は思い出す
まだ十九だったころのおまえを
そして
おまえと過ごした遠く美しい街のことを
時の彼方の町 2012/09/25(火) 18:01 編集 削除
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