作品の掲載
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雨が降っている
白い傘を広げて
おまえはバスを降りてくる
初夏の午後
待った?と
いつものように笑いながら
きのう……と言いかけて
私は思わず口を閉ざす
おまえが
またね と片手をあげて
階段を下りていったのは
もう十年以上も昔のこと
この雨の駅に降り立つまでに
いろんなことがあったはずなのに
私は何ひとつ思い出せないでいる
夢の中で
最初からなかった物を
探している時のように
それでも
おまえの手をしっかりと握っている子供は
ほのかな痛みを連れて
歳月の流れを確かなものにしている
出逢った頃のおまえと同じ目をして
雨が降っている
おまえは 待った?と笑いながら
バスを降りてくる
十年の歳月を一夜に閉じ込めて
この見知らぬ町の
初夏の午後に
白い傘を広げて
おまえはバスを降りてくる
初夏の午後
待った?と
いつものように笑いながら
きのう……と言いかけて
私は思わず口を閉ざす
おまえが
またね と片手をあげて
階段を下りていったのは
もう十年以上も昔のこと
この雨の駅に降り立つまでに
いろんなことがあったはずなのに
私は何ひとつ思い出せないでいる
夢の中で
最初からなかった物を
探している時のように
それでも
おまえの手をしっかりと握っている子供は
ほのかな痛みを連れて
歳月の流れを確かなものにしている
出逢った頃のおまえと同じ目をして
雨が降っている
おまえは 待った?と笑いながら
バスを降りてくる
十年の歳月を一夜に閉じ込めて
この見知らぬ町の
初夏の午後に
優しい人になりたいと思ったことがあった
恋をしていた時
素直な心を持ちたいと持ったことがあった
恋をしていた時
いつもほほえんでいたいと思ったことがあった
君に恋をしていた時
十年以上の歳月が去って
今の私は何も思いはしない
ただ
もう一度同じ日々を生きられるなら
私は決して君を離しはしないだろう
恋をしていた時
素直な心を持ちたいと持ったことがあった
恋をしていた時
いつもほほえんでいたいと思ったことがあった
君に恋をしていた時
十年以上の歳月が去って
今の私は何も思いはしない
ただ
もう一度同じ日々を生きられるなら
私は決して君を離しはしないだろう
夜明け
春雷の音を聞きながら
私は思い出す
蔓ばらの咲く塀に沿って
歩いていたことを
たあいもない会話をくりかえしながら
おまえの顔が
いつも明るい笑いに彩られていたことを
たぶん
そのころの私の目は
今よりも澄んでいただろう
おまえの黒い瞳を
はっきりと映せるほどに
雨混じりの風は
締め切っているはずの台所の
ぶらさげられた杓子のたぐいを揺らしている
午後
私たちは美しい池のほとりで別れて
お互いのバイト先へ急ぐのが日課だった
おまえはパンの店へ
私は坂道を登って
時計塔のある喫茶店へ
窓からは海も見えて
たぶん
そのころの私の心は
今よりもずっと澄んでいただろう
おまえの溢れることばを
全て覚えていられるほどに
春雷の音を聞きながら
私は思い出す
まだ十九だったころのおまえを
そして
おまえと過ごした遠く美しい街のことを
春雷の音を聞きながら
私は思い出す
蔓ばらの咲く塀に沿って
歩いていたことを
たあいもない会話をくりかえしながら
おまえの顔が
いつも明るい笑いに彩られていたことを
たぶん
そのころの私の目は
今よりも澄んでいただろう
おまえの黒い瞳を
はっきりと映せるほどに
雨混じりの風は
締め切っているはずの台所の
ぶらさげられた杓子のたぐいを揺らしている
午後
私たちは美しい池のほとりで別れて
お互いのバイト先へ急ぐのが日課だった
おまえはパンの店へ
私は坂道を登って
時計塔のある喫茶店へ
窓からは海も見えて
たぶん
そのころの私の心は
今よりもずっと澄んでいただろう
おまえの溢れることばを
全て覚えていられるほどに
春雷の音を聞きながら
私は思い出す
まだ十九だったころのおまえを
そして
おまえと過ごした遠く美しい街のことを
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