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百日紅が咲いている
夏の夕方
蝉時雨の道を
私は歩いている
ギターを持たずに
スケッチブックも持たずに

ノウゼンカズラのあふれた石垣に沿って
あなたは歩いている
子供の手を引いて
そして
買物篭をぶらさげて
たぶん
今ごろの時間は
時の彼方の町 2012/09/25(火) 04:05 編集 削除
雨が降っている
白い傘を広げて
おまえはバスを降りてくる
初夏の午後
待った?と
いつものように笑いながら

きのう……と言いかけて
私は思わず口を閉ざす
おまえが
またね と片手をあげて
階段を下りていったのは
もう十年以上も昔のこと

この雨の駅に降り立つまでに
いろんなことがあったはずなのに
私は何ひとつ思い出せないでいる
夢の中で
最初からなかった物を
探している時のように

それでも
おまえの手をしっかりと握っている子供は
ほのかな痛みを連れて
歳月の流れを確かなものにしている
出逢った頃のおまえと同じ目をして

雨が降っている
おまえは 待った?と笑いながら
バスを降りてくる
十年の歳月を一夜に閉じ込めて
この見知らぬ町の
初夏の午後に
時の彼方の町 2012/09/25(火) 04:04 編集 削除
優しい人になりたいと思ったことがあった
恋をしていた時
素直な心を持ちたいと持ったことがあった
恋をしていた時
いつもほほえんでいたいと思ったことがあった
君に恋をしていた時

十年以上の歳月が去って
今の私は何も思いはしない
ただ
もう一度同じ日々を生きられるなら
私は決して君を離しはしないだろう
時の彼方の町 2012/09/25(火) 04:03 編集 削除
雪の季節が終わり
かすかに
土の香りが空気に混じりはじめたこのごろは
誰かに呼ばれているような気がして
街に出てみるのだ

緑に淡く染まり始めた土手を登り
輝く線路の続く所まで
くりかえし夢に現れる踏切のある場所まで
そこには
懐かしい草花が秘密のように咲いている

雪の季節が終わり
空にほのかな紫が混じりはじめたこのごろは
なぜか
あなたともう一度会えるような気がして
私は
街に出てみるのだ
時の彼方の町 2012/09/25(火) 04:02 編集 削除
夜明け
春雷の音を聞きながら
私は思い出す
蔓ばらの咲く塀に沿って
歩いていたことを
たあいもない会話をくりかえしながら
おまえの顔が
いつも明るい笑いに彩られていたことを
たぶん
そのころの私の目は
今よりも澄んでいただろう
おまえの黒い瞳を
はっきりと映せるほどに

雨混じりの風は
締め切っているはずの台所の
ぶらさげられた杓子のたぐいを揺らしている

午後
私たちは美しい池のほとりで別れて
お互いのバイト先へ急ぐのが日課だった
おまえはパンの店へ
私は坂道を登って
時計塔のある喫茶店へ
窓からは海も見えて
たぶん
そのころの私の心は
今よりもずっと澄んでいただろう
おまえの溢れることばを
全て覚えていられるほどに

春雷の音を聞きながら
私は思い出す
まだ十九だったころのおまえを
そして
おまえと過ごした遠く美しい街のことを
時の彼方の町 2012/09/25(火) 04:01 編集 削除
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